フィリピンの人たちに聞く「気候変動の今」
ココナッツ情報マガジン「ココナティスト」
COCONUTIST 2022・Winter
Philippines Report Vol.6
フィリピンの人たちに聞く「気候変動の今」
認定NPO法人アクセス 事務局長 野田 沙良(のだ さよ)さん
「今年も台風が多いよね、気候変動の影響かなって思うと怖い」そう話してくれたのは、フィリピンの都市スラムで生まれ育った中学生。何気ない日常会話の中で、10代の子が「Climate change(気候変動)」という英単語を当たり前のように口にしたことに、私は少し驚きました。この会話をしたのは、2010年。その頃からすでに、気候変動はフィリピンのテレビやラジオで日常的に扱われる話題の1つになっており、人々は気候変動を肌で感じるようになっていたことがうかがえます。 実際にフィリピンで長年暮らしてきた人たちはどう感じているのでしょう?フィリピンで生まれ育って60年のフィリピン人・リサさんと、フィリピン在住30年になる日本人・石川さんにお話しを聞いてみました。
この数年で、気候が変わってきたという実感は?
リサ:もともとフィリピンの夏の気温は21~30度程度でした。でも今は、35~40度の猛暑日が増えています。加えて、大型で破壊力の強い台風が増えてきているように感じます。2009年、2012年、2013年にフィリピンを襲った「スーパー台風」は多くの犠牲者を出し、経済的にも大きな被害をもたらしました。台風の進路も変わってきています。以前は滅多に台風の影響を受けなかったミンダナオ島にも、定期的に強い台風がやってくるようになっているんです。
石川:データを見てみると、1991~2020年の台風の発生数や犠牲者数は、特に増えているわけではありません。平均気温、平均降水量の30年間の推移も、大きな変化はないようです。ただいくつか、非常に大きな被害をもたらした台風が過去20年間にやってきています。2009年の台風では、6時間で360ミリという記録的な雨量があって大規模な洪水が発生しました。また、2013年の台風は風速80メートルという世界的にも記録的な勢力で、死者約6000人を出しています。2011年、2012年には、台風により1000人以上の死者が出ています。これは、これまで台風が上陸しなかったミンダナオ島を通過したためです。台風被災の経験がほとんどなかったために、大きな被害が出ています。。
2020年の台風で家が全壊したジェシカさん。 再建前の手作りテントの前で
災害で被害を受けやすいのはどういった人たちですか?
リサ:川べりや海岸沿い、山の斜面などに暮らす人々ですね。都市部では川沿いや海岸沿いにできたスラムが頻繁に浸水し、日常的に被害を受けています。農村部では、洪水や高波に加えて、土砂崩れが深刻です。そうしたリスクの大きいエリアに暮らす人々の多くは、貧しい農民や漁師です。防災対策が十分に行われていない貧しい地域ほど、より高いリスクにさらされています。
小さな台風でもこんな被害が!
どんな防災対策が取り組まれていますか?
石川:政府の動きとしては、災害対策のため、各省庁間の横断的組織(防衛省、内務自治省、社会福祉開発省、農業省、科学技術庁、気象台など)が整備されてきています。気象台からの気象情報が各省庁に伝えられ、メディアからも視聴者に伝えられ、また、自治体から避難勧告が出て、軍隊や警察が出動することも、以前より事前に行われるようになっています。2009年と2013年の大型台風が、こうした防災体制整備の契機となっていますね。
リサ:数年前から、政府がハザードマップ(地滑り、洪水、津波などのリスクが高い地域を示す地図)を作成するようになったことは、とてもいい変化です。危険度の高い場所を把握し、減災のための計画を立て、避難場所を特定するのに役立てられています。災害が起こるたびに、ハザードマップがきちんと更新されていってほしいですね。
石川:ただ、自治体によって防災体制整備の進み方にはばらつきがあります。進んでいる自治体では、避難勧告が携帯電話で各家庭に伝えられたりしているのに対して、遅れている自治体では、手遅れになって被害が出る、という例が多いです。
人々の意識に変化は?
石川:メディア、教育現場で、気候変動についての啓蒙活動が広く行われるようになっているのを感じます。そのことが人々の意識を変えてきているのは確かで、エコ運動とも結びついて、植樹事業やプラスチックゴミ減量運動が広がっています。
フィリピンでフェアトレード事業に取り組む友人は、「フィリピンでも気候変動を自分事としてとらえる人は増えている。エコフレンドリー商品やフェアトレード商品を選ぶ人が増えているのには、そうした背景が関係していると思います。」と話します。自然災害の被害を最小限に抑えながら、地球にも人にもやさしい商品がどこででも気軽に手に入る未来を、フィリピンでも日本でも実現していきたいなと思います。
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フィリピンの気候
熱帯性気候。年間を通じて暖かく、年平均気温は26~27度。6~11月が雨期、12~5月が乾期と分かれているが、地域によってかなり差がある。フィリピンの人々は、最も暑い時期である4~5月を「夏」と呼ぶ。この時期は、マニラ首都圏を中心に各地で最高気温が35度を超える日が多くなる。
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アクセスが行なっている子ども教育プログラムは、こちらからご覧ください。
https://access-jp.org/archives/2774
【筆者プロフィール】
認定NPO法人アクセス 事務局長
野田 沙良(のだ さよ)
フィリピンで活動する国際協力団体アクセスで、「子どもに教育、女性に仕事」を柱とした活動に従事。フェアトレードのココナッツ殻雑貨などの生産・販売も。
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